【建設業法・入契法改正】「労務費しわ寄せ」「資材高騰」対策!価格転嫁の新ルール
ウッドショックや鋼材高騰、エネルギー価格の上昇など資材コストの乱高下に苦しむ一方で、現場では「労務費へのしわ寄せ」が常態化し、担い手不足に拍⼿を掛けています。2024 年(令和6年)の建設業法・入契法改正は、この二重苦を断ち切るために価格転嫁と適正労務費確保の仕組みを強化しました。
本記事では改正ポイントと実務対応をわかりやすく整理し、元請・下請・発注者が取るべきアクションを解説します。
目次
建設業を襲う「労務費しわ寄せ」と「資材高騰」の二重苦
資材価格が月ごとに変動する中、見積時の単価で契約を固定すると下請や技能者が原価割れを被ります。国交省調査では、2023 年度下期に「労務費をカットして帳尻を合わせた」現場が約3割にのぼりました。
法改正は状況打開の糸口となるか?
改正建設業法は「標準労務費+労務費配慮の努力義務」で賃金ダンピングを抑制。入契法は「発注関係事務運用基準」を新設し、予定価格・契約金額へ資材高騰分を的確反映する仕組みを整えました。
この記事で分かること:しわ寄せ防止・価格転嫁の最新ルールと対策
- 1.改正要点が5分で理解できる
- 2.元請・下請の実務フローが分かる
- 3.価格転嫁が進まないリスクを把握できる
なぜ起こる?「労務費しわ寄せ」と「価格転嫁難」の構造
重層下請構造と「予定価格≒最低受注価格」の商慣行が、原価上昇分を最下層へ押し付ける温床になっています。
問題の背景にある構造的要因
- 多段階請負で各層が上乗せするため、末端業者が利益を削らざるを得ない
- 工期末一括払いや出来高検収で、原価変動を随時転嫁しにくい
- 「価格交渉は弱い立場が泣き寝入り」という固定観念
【法改正による対策1】労務費へのしわ寄せ防止策を強化
令和6年建設業法改正は、技能者を守る3つの歯止めを導入しました。
目安を示す:「標準労務費」の導入
国交省が公共工事設計労務単価を基礎に、社会保険料事業主負担分まで含む「標準労務費」を職種・地域別に勧告。元請・発注者はこれを目安に賃金水準を判断できます。
元請の責任:「労務費配慮の努力義務」
改正建設業法第19条の6で、元請は下請契約額が標準労務費を「著しく下回らない」よう配慮する義務(努力義務)が明記されました。下請が適正見積を書面で提出し、それを尊重する姿勢が不可欠です。
透明性の確保:見積もり内訳明示の促進
元請は見積依頼書に工程別数量を示し、下請は標準見積書で労務費・資材費を細分して提出。内訳が可視化されれば、値下げ圧力の根拠が曖昧なまま通らなくなります。
監視の目:「建設Gメン」による取り組み
国交省の「建設Gメン」が重点現場を立ち入り調査。標準労務費を大幅に下回る契約が確認されれば勧告・公表・監督処分の対象になります。
【法改正による対策2】資材高騰分の価格転嫁を後押し
入契法改正と契約約款見直しにより、「資材高騰は請負者リスク」という旧来の考え方を転換します。
契約の基本原則:「スライド条項」の理解と活用
建設工事標準請負契約約款では、契約締結後に主要資材価格が10%超変動した場合、「単品スライド」「インフレスライド」で請負代金を改定可能。条項を削除した独自約款を用いないよう注意が必要です。
公共工事における転嫁ルール:入契法の改正
新「発注関係事務運用基準」により、発注者は予定価格やスライド上限率を実勢価格に合わせて改定する責務が明文化されました。
民間工事における転嫁のポイント
- 契約段階で「価格変動協議条項」を盛り込む
- 主要資材指標(鋼材市況、木材市況、燃料油価格)を定点観測し共有
- 国交省『民間工事の取組事例集』を参考に、スライド合意のテンプレートを活用
見積もり内訳明示の役割
資材費を品種別に示しておけば、値上がり時に改定額を迅速算定でき、協議も円滑です。
価格転嫁を円滑に進めるためのポイント|元請・下請双方の視点
資材価格の変動を契約価格へスムーズに反映させるには、「データを基にした根拠提示」と「早期協議の仕組みづくり」が欠かせません。
この章では、下請と元請が互いの立場で実践できる具体的アクションを整理し、交渉の停滞を回避するコツを示します。
下請業者ができること
- 根拠ある見積もり:標準見積書+市況データ添付で説得力アップ
- 情報収集:日建連・建設物価調査会などの市況を月次で把握
- 契約時の確認:スライド条項を削除しない・改定のトリガー条件を数値で明記
- 早期の協議:変動幅が5%に達した時点で元請にエビデンス提示し協議を要請
元請業者ができること
- 下請見積もりの尊重:労務費配慮義務を徹底し、根拠のない値引きを排除
- 契約条件の整備:変動協議条項・燃料調整条項を標準契約に組み込む
- 発注者への交渉:スライド根拠資料を添付し、請負代金変更契約を速やかに締結
- 情報共有と連携:市況上昇時は下請へ速報し、追加見積を早期提出させる
しわ寄せ防止・価格転嫁が進まない場合のリスク
適正な価格形成を怠ると、赤字受注が連鎖してサプライチェーン全体に深刻なダメージを与えます。ここでは、労務費しわ寄せや価格転嫁停滞が招く経営・品質・人材面のリスクを具体例とともに確認し、「転嫁は企業防衛策」であることを再認識します。
赤字受注と経営悪化
資材高騰分を転嫁できないまま工事を進めると、下請はもちろん元請も予定粗利を失います。東北の舗装工事(契約3.2億円)ではアスファルト単価が15%上昇したのにスライド協議を行わず、完成時に元請利益率が▲4%へ転落。瑕疵補修費用を捻出できず追加融資を要請する事態に陥りました。
品質・安全性の低下
コスト削減の矛先が労務費や安全対策費に向かうと、品質不良と事故件数が急増します。国交省の統計では、予定価格比80%未満で落札した工事は90%以上に比べ重大事故率が約1.6倍高い(2022年度1万件調査)。
担い手不足の加速
低賃金・長時間労働が続けば技能者は流出します。関東の型枠工事会社は日当1万4千円据え置きのまま1年で20代技能者の離職率が50%超に。標準労務費2万円水準へ引き上げた同業他社は同離職率を15%⇒6%に抑えました。
連鎖倒産のリスク
一次下請の資金繰り悪化が波及し、連鎖倒産を招くケースも。2023年、九州の設備工事で支払い遅延を発端に同一サプライチェーン内5社が同月破産。元請も工期遅延損害金を負担し、信用格付けが引き下げられました。
適正な価格形成で、持続可能な建設業へ
適正価格は「コストアップ」ではなく「企業と技能者を存続させる保険」です。法改正を追い風に、元請・下請・発注者が対等な関係を築き、公正な取引と価格転嫁を進めましょう。
法改正は適正価格実現への追い風
標準労務費・スライド条項・運用基準を活用すれば、適正価格の根拠は十分示せます。
建設業界全体で取り組むべき課題
共通課題は「内訳明示の徹底」と「協議の早期化」。IT ツールで市況を共有し、エビデンスに基づく交渉文化を浸透させることが急務です。
メッセージ
価格転嫁と労務費確保は誰かの負担ではなく、現場の安全と品質、そして未来の担い手を守るための共同プロジェクトです。今日から一歩踏み出し、公正な取引慣行を業界標準にしていきましょう。