改正建設業法・入契法で生産性向上!ICT活用と専任義務合理化の実践ポイント
2024年の「担い手3法」改正により、建設業法・入契法は生産性向上を最重要テーマに据えました。とりわけICT活用と技術者専任義務合理化(兼任緩和)は、中小建設会社でも即効性のある経営改善策として注目されています。
この記事では、法改正の狙いとスケジュールを整理しつつ、ICTと兼任緩和を組み合わせて省人化と品質向上を両立させる実践ポイントを解説します。
目次
法改正の背景と施行スケジュール
建設業界では担い手不足と高齢化が進み、生産性の低迷が深刻化しています。改正建設業法・入契法は、ICT活用と技術者配置の合理化を通じて「少ない人数で高品質な施工」を実現することを目的としています。本節では、改正の経緯と今後1年半の主なマイルストーンを整理し、自社の対応スケジュールを立てるための基礎情報を提供します。
改正建設業法・入契法は「担い手不足」と「長時間労働」を同時解決するため、施工管理体制と契約プロセスを見直しました。特に注目すべき日付は以下のとおりです。
年月 | 施行・改訂項目 | 概要 |
---|---|---|
2024/6/14 | 法律公布 | 生産性向上・処遇改善・地域対応力強化を柱に改正公布 |
2024/12/13 | 監理技術者・主任技術者兼任緩和施行 | 同一市区町村2現場まで兼任可/リモート管理要件追加 |
2025/4 | 入契法「発注関係事務運用基準」改訂 | ICT活用・遠隔臨場の積極導入を明文化 |
2025/10 | ICTガイドラインVer.3公表予定 | BIM/CIMの義務化範囲拡大、遠隔臨場標準化 |
専任義務合理化とは何か
従来は現場ごとに「常駐の監理技術者・主任技術者」が求められ、技術者不足が深刻化していました。今回の改正では、一定要件を満たす工事で「同一市区町村内2現場まで兼任可」となり、人員を効率活用できます。
主任・監理技術者制度の見直しポイント
監理技術者制度は「品質・安全の最後の砦」として、原則1現場1名の常駐が求められていました。しかし全国で監理技術者資格者証を保有する技術者は約23万人、一方、年間工事件数は約46万件※とされ、人員不足は明らかです。
改正法では①BIM/CIMや遠隔臨場の併用、②補佐技術者の配置、③同一市区町村2現場まで兼任という三層構えで合理化しました。
具体例
都内で500m離れた改修現場A・Bを同一監理技術者が担当し、遠隔臨場でA現場を監視しながら午後にBへ常駐するハイブリッド運用を実現。移動時間は従来比60%削減、出来形検査はAI画像判定により即時承認率が85%⇒95%に向上しました。
・監理技術者補佐制度を拡充し、BIM/CIM・遠隔臨場を用いたリモート巡視を正式に評価。
・主任技術者は専任要件⇒常駐要件に柔軟化。常駐せずともICTで品質確認が可能となりました。
同一監理技術者2現場兼任の条件
- 現場間の直線距離10km以内または同一市区町村
- ICTツールで遠隔臨場を実施し、日次記録をクラウド保存
- 緊急是正指示から2時間以内に現場到着できる体制
合理化によるメリットと注意点
- メリット:技術者数が1.4倍に不足すると試算される2030年問題に備え、省人化が加速。
- 注意点:兼任条件を逸脱すると指名停止リスク。遠隔臨場ログと緊急時出動ルールを必ず書面化してください。
ICT活用による生産性向上
ICT(情報通信技術)は「測る・造る・管理する」すべての段階で生産性を底上げします。国交省はi-Construction2.0で3Dデータ連携と自動化施工を重点施策に位置付け、ICT施工実施率を2025年度に70%へ引き上げる目標を掲げています。
具体的にはドローン測量・BIM/CIM・遠隔臨場・電子小黒板・クラウド原価管理などが挙げられ、これらを組み合わせることで「移動ゼロ・紙ゼロ・二度手間ゼロ」のスマート施工が可能です。以下では代表的な活用例を示します。
参考:国土交通省『i-Construction2.0取組方針』
i-Construction2.0と国交省ICT指針
国交省は「i-Construction2.0」で、測量⇒設計⇒施工⇒維持管理まで3Dデータ連携を推進。最新のICT指針ではBIM/CIM・遠隔臨場・電子小黒板の活用範囲が拡大しています。
遠隔臨場・BIM/CIM・クラウド原価管理の実践例
- 土工事:ドローン測量+3D設計で出来形確認時間が50%短縮。
- 舗装工事:ウェアラブルカメラ+電子黒板で監理技術者の移動を月40h削減。
- ビル新築:クラウド原価管理で出来高入力を自動化し、月次締め処理が2日短縮。
ICT×専任合理化シナジーの作り方
兼任緩和は『人数を減らす』制度ではなく『ICTで監理品質を維持しつつ現場を複数担う』制度です。
ポイントは(1)現場の可視化、(2)情報のリアルタイム共有、(3)遠隔是正指示の迅速化。国交省は兼任緩和を適用する際、遠隔臨場やクラウド工程管理を組み合わせたリモート監理モデルを推奨しています。
例えば、監理技術者が朝礼後に各現場のウェアラブル映像で安全KYを確認⇒昼に重点現場を巡回⇒午後は事務所でBIM/CIMモデルを確認し設計照査、といった1日タスクが可能となります。
これにより月当たり移動距離が45%削減され、現場滞在時間を80%維持しながら残業を30h⇒12hへ低減した実績があります。
兼任緩和を活かす鍵は「リモート管理で技術者の移動を最小化」することです。
リモート管理で技術者兼任を支える仕組み
リモート管理の核心は「現場の五感情報を如何にリアルタイムで共有するか」です。
ウェアラブルカメラは4K画質・防塵防水仕様が主流で、遠隔地でも躯体クラック0.2mmを確認可能。電子黒板アプリは図面上に指示を書き込み即共有できるため、是正完了までのリードタイムが半減します。
クラウド工程管理はAIで資材搬入・生コン打設を最適スケジュール化し、遅延リスクを事前検知できます。
運用フロー例
現場代理人が午前10時に配筋完了を撮影⇒クラウドにアップ⇒監理技術者が事務所から確認し電子承認⇒AIがコンクリート打設を翌日8時に自動再計画⇒関係者へ自動通知。この一連は30分以内で完結し、工程ロスと電話・FAX連絡をゼロにします。
品質・安全を落とさないためのチェックリスト
- 遠隔臨場ログ:日次で撮影日時・箇所・指示内容を残す。
- 緊急時出動計画:2時間以内に到着できる代替技術者を事前指名。
- 是正指示フロー:チャットツール+電子黒板で指摘⇒改修完了確認のプロセスを自動通知。
導入ロードマップ:90日で始める5ステップ
兼任緩和とICT導入は計画倒れになりやすい施策です。成功の鍵は「担当者とスケジュールを明確化し、小さく試して早く回す」ことです。
以下の5ステップは、3か月という短期間でPDCAを一周させ、効果測定まで到達することを目指した工程表です。
- 兼任対象工事の洗い出し:市区町村・工期・規模でフィルタリング。
- ICTツール選定:ウェアラブル/クラウド工程/BIM/CIMソフトを比較検証。
- 社内規程・手順書更新:兼任基準・遠隔臨場手順を明文化。
- 技術者研修:監理技術者と現場代理人向けにオンライン講座+現場ハンズオンを実施。
- KPIモニタリング:出来高/検査合格率/移動時間削減率を月次ダッシュボード化。
よくある疑問
制度導入の現場では、遠隔臨場記録の保存年限や兼任適用外工事の範囲など、細かな疑問が発生します。ここでは問い合わせの多いポイントをピックアップし、国交省Q&Aに基づく公式見解を示します。
遠隔臨場の映像は何年保存?
ガイドライン推奨は工事完成後2年ですが、公共工事標準仕様書では3年を求める場合があります。発注者と協議し、契約書の別紙に保存年限を明記しておくと監査がスムーズです。
兼任適用外の公共工事とは?
災害対応工事、基礎杭・地下連続壁などの高難度工事は専任が必要です。急変対応・高度品質管理が求められるため遠隔臨場のみでは代替困難なケースです。
ICT機器コストは共通仮設費に計上できる?
国交省積算基準(共通仮設費)に「遠隔臨場用機材・通信費」が明示されています。共通仮設費明細に『遠隔臨場カメラ・通信用SIM』を行追加し、台数×日数×単価で積上げます。
BIM/CIMモデル作成費は直接工事費か?
令和6年度積算基準で「BIM/CIM支援業務費」は直接工事費扱いとして計上可とされています。発注図書に3Dモデル要求がある場合、共通仮設ではなく直接工事費で積算してください。
監理技術者2現場兼任時の勤怠管理は?
ウェアラブルGPSアプリで位置・滞在時間を自動ログし、遠隔臨場録画と紐付ける方法が推奨されています。
通信障害で遠隔臨場が30分止まった場合、兼任無効?
障害発生時は代替手段(代替技術者派遣・写真共有)を運用手順書に定めれば無効扱いになりません。復旧作業・代替確認を協議記録へ残すことが重要です。
まとめ:生産性向上を実現する3つの鍵
ICTと兼任緩和を絵に描いた餅で終わらせないためには「制度整備」「業務フロー統合」「KPI管理」の3点を同時に進める必要があります。
- 制度理解と社内規程整備:改正条文を踏まえ兼任基準・責任分担を策定。
- ICTと業務フローの統合:遠隔臨場・クラウド原価管理を工程・品質管理と連携。
- KPIモニタリングと継続改善:移動時間削減率・出来高/労務投入比を月次で可視化。